業務システムが Excel に戻る理由 — 数百万円の導入を無駄にしない「現場接触の量」

数百万円かけて入れた業務システムが、半年後には使われず、現場は Excel に戻っている。不動産会社の業務改善で、私が何度も見てきた光景です。原因はシステムの出来ではありません。現場の 1 日の動きを、導入前に誰も最後まで見ていなかったことにあります。この記事では、業務システムの導入が失敗する 3 つの原因と、発注する側が導入前に確かめておく 4 つのことを整理します。

ある賃貸管理会社で起きたこと

ある賃貸管理会社では、3 年前に業務システムを入れ替えました。営業・契約・管理を一気通貫で扱えるという触れ込みで、投資額は数百万円。導入の意思決定は、社長と経理担当の役員の二人で進めました。

稼働から半年後に私が訪問したとき、現場のスタッフは Excel に戻っていました。新システムには月末の集計に必要な最低限の項目だけが入力され、日々の業務は Excel と紙の伝票で回っていました。

担当者の言葉はシンプルでした。「クリックが多くて間に合わない」「項目が多すぎて、全部埋める意味が分からない」「結局、現場の動きと合っていない」。ベンダーは要件定義書のとおりに作っていて、誰も嘘はついていません。ただ、現場の 1 日の動きを最後まで見た人がいなかった。それだけのことでした。

失敗の原因は技術ではなく、設計の前提

この種の失敗は、システムの不具合では起きません。原因はもっと手前にあります。

① ヒアリングが会議室で終わっている。 要件定義はオンライン会議で 3 回行いましたが、現場の担当者が「自分の 1 日の動き」を順番に説明する場は一度もありませんでした。社長と役員が語る「あるべき業務フロー」が、そのまま要件定義書になりました。

② 移行期間の二重作業を計画していない。 稼働日に旧フローを止める計画でしたが、新システムでの作業は現場の想定の倍かかり、Excel を並走させるしかなくなりました。並走の負担を誰が引き受けるかも決まっておらず、現場のやる気は目に見えて下がりました。

③ 経営側の「あるべき姿」と現場の手元がずれている。 経営側が描いた姿は筋が通っていました。ただ現場では「画面を開いてから最初の入力までに 3 クリック」という細かな負担が積み重なり、少しずつ使われなくなりました。

どれも業種や規模を問わず起きます。逆に言えば、導入前に確かめる項目を決めておけば防げます。

発注する側が導入前に確かめる 4 つのこと

1. ベンダーが現場に来る回数が決まっているか

会議でのヒアリングだけで設計させないことです。実際の業務を一緒に回して、何回クリックするか、どこで手が止まるかを見てもらいます。私は案件の規模に応じて、最低限の接触量を次のように決めています。

案件規模キーマン接触現場見学試運用
小(〜30 万円)60 分 × 2 回1 回(短時間可)1 週間
中(30〜200 万円)60 分 × 3 回(うち 1 回は現場)2 回2 週間
大(200 万円〜)60 分 × 4 回以上+現場相談月次レビュー4 週間

オンラインだけで済ませてよいのは、小規模で単機能の案件だけです。中規模以上なら、現場に来る回数を要件定義書に書いてもらうのが確実です。

2. 「想定される抵抗と対応」が提案書に書かれているか

新しいやり方を入れれば、現場には必ず抵抗が出ます。怠けているのではなく、自然な反応です。良い提案書には、どんな抵抗が出そうで、どう手を打つかが最初から書かれています。

抵抗の言葉背景事前の手当て
「今までのやり方で困ってない」今のままでいたい気持ち手戻りの時間・ミスの件数・残業を数字で見せる
「覚えるのが面倒」覚え直す負担への抵抗新旧を並行させる期間をはっきり決めておく
「自分の仕事がなくなるのでは」雇用への不安浮いた時間で何をしてもらうかを導入前に決めておく

これを先に書き出しておけば、抵抗が出ても「想定どおり」として落ち着いて進められます。プロジェクトが想定外の抵抗で止まるのは、ほとんどがこの棚卸しを省いたときです。

3. 並行期間と、旧運用をやめる基準が数字で決まっているか

稼働日に旧運用を止める計画は、ほぼ確実に崩れます。2〜4 週間は新旧を並行させる期間として計画に入れ、その間の追加の負担を誰が持つかも決めておきます。旧運用をやめる日は雰囲気で決めず、「新システムへの入力率 90%」のように数字で決めておくと、二重作業がずるずる続く事態を防げます。

4. 投資額と回収までの月数が示されているか

最後は現場の感情で決まる部分があっても、経営判断には数字が要ります。私は提案のときに、必ず 3 段階の案を出しています。

  • 松:理想形(フル機能・3〜6 か月・回収 12〜18 か月)
  • 竹:標準形(主要な機能・2〜3 か月・回収 6〜12 か月)
  • 梅:最小形(1 機能のみ・1 か月・回収 3〜6 か月)

回収まで 36 か月を超える案は、提案そのものを見直す目安にしています。投資の理由を説明できない仕組みは、現場に下ろしても形だけになるからです。

大きく変える前に、小さな成功体験をつくる

いきなり大きく変えようとしないこと。これは私の経験則です。

最初は Excel の様式をそろえる、共有フォルダを整理する、Google スプレッドシートに移す、といった、費用をかけずに効果を実感できることから始めます。現場が「これは便利だ」と感じる体験を 1 つ作ってから、kintone や会計ソフトのような業務の土台に進みます。

順番を間違えると、どんなに良いシステムも使われなくなります。逆に、小さな成功体験が 1 つあると、次の大きな変化への現場の向き合い方が変わります。

まとめ — 4 つが揃っていない提案なら、発注を急がない

業務システムの提案を受けたら、現場に来る回数・想定される抵抗と対応・並行期間とやめる基準・投資額と回収の月数、の 4 つが書かれているかを見てください。どれかが抜けているなら、契約の前にベンダーへ追加で出してもらいます。数百万円を無駄にしないためにできる、いちばん安い手当てです。

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